全身麻酔で意識を喪失する原因を特定

大きな手術をする際に使用される全身麻酔。
私も以前、外科手術を行なう際に経験したことがあります。
若い頃だったので悪戯心をおこし、なんとか抗ってみようとしたのですが、口元になにかを当てられて3つ数えるまえに意識を喪失。
気づいたら、ベッドに寝かされ、天井を見上げていました。

そんな全身麻酔ですが、意識消失の作用機序については完全には解明されていないまま今まで使用されてきたことをご存知でしょうか。
今回ご紹介する記事は、その謎に踏み込んだ研究ついてです。

ちなみに研究結果を載せていたのがジャーナルWebのPNASです。
これは全米科学アカデミーの公式ジャーナルである全米科学アカデミーの議事録で、医学に限らず物理学や各種科学、数学などアカデミックな記事が豊富に掲載されています。

出典:全身麻酔のメカニズムに関する研究
https://www.pnas.org/content/early/2020/05/27/2004259117

全身麻酔

全身麻酔の作用機序を解明する実験は、ミバエ(実蠅)を使って行われました。
吸入麻酔薬は化学的に多様な疎水性分子の集合体であり、TWIK関連のK+チャネル(TREK-1)を強力に活性化し、意識喪失を可逆的に誘発します。
吸入麻酔薬(クロロホルムとイソフルラン)がホスホリパーゼD2(PLD2)の脳内にある脂質ラフトへの局在化を阻害し、それに続くシグナル性脂質ホスファチジン酸(PA)の産生を介してTREK-1を活性化することを示しています。
触媒的に死んだPLD2は、全細胞パッチクランプ記録において麻酔薬TREK-1の電流を強力にブロックします。PLD2の局在化はTRAAKチャネルを敏感にし、それ以外の場合は
麻酔薬に鈍感なチャネルとなります。

…という、何が分かりづらい内容なのですが、簡単に言うと一部にまとまって存在していた
脳内物質を活性化させることにより、ヒトは意識を消失させるというようです。
全身麻酔の作用機序が分かったからどうだという話でもありますが、何も分からないよりは良いですし、原理が判明することにより同じ結果を生じることができる他の方法を探る手立てにもなり得ます。

自毛植毛は局所麻酔

さて全身麻酔とは異なり、意識を焼失させるのではなく、部分的に痛みを感じさせないようにする局所麻酔という手段があります。
過去に全身麻酔を経験している私ですが、この局所麻酔も経験したことがあります。
それが親和クリニック大阪院で行なった、自毛植毛手術です。
自毛植毛では後頭部から移植ドナーとなる毛包を、極細のパンチブレードという特殊な器具でくり抜くようにして採取するのですが、事前に頭皮へ局所麻酔を注入します。
局所麻酔は、意識がなくなるというわけではなく、ややボーっとするような感じで、ドナーをくり抜いているときには痛みを感じません。
移植に使用するドナーの本数を採取し終えたら、次はそのドナーをデザイン合わせて移植していきます。
田植えのように頭皮に小さな穴をあけて植えていくのですが、このときにも局所麻酔で痛みをケアします。

全身麻酔時には、そのまま意識が戻らなかったら…
などと手術前に考えてしまったのですが、局所麻酔では特にそのようなことを考えることはありませんでした。
人によっては恐怖を覚えてしまうかたもいるそうで、親和クリニック大阪院では身体的・心理的負担を和らげるために、鎮静剤を使うこともあるそうです。

出典:親和クリニック大阪院
https://shinwa-clinic.jp/osaka/

まとめ

麻酔と一口に言っても、その形態は様々です。
全身麻酔を使った本格的な手術は、西洋ではなく、なんと和歌山の医師、華岡青洲(はなおかせいしゅう)が1804年に乳がんの患者のためにおこなったことが最初です。
この技術のおかげで、外科手術が行いやすくなったわけです。自毛植毛手術でも大変重要で、もし麻酔をしないで手術を行うとしたら、とても手術を受けようとは考えなかったと思います。
植毛手術でも麻酔は専門医が行います。専門教育を受け、何例もの臨床を重ねてきたスペシャリストに支えられているわけです。