髪の毛を再生する~再生医療の現状

プロフェッショナルの分析に基づいた情報を集めたWebサイト現代ビジネス(講談社)にて、薄毛や脱毛症に悩む人に向けた再生医療に関する記事が掲載されていましたので紹介します。
記事を執筆されたのは理化学研究所の辻孝氏。
辻氏は理研の生命機能科学研究センター 器官誘導研究チームのリーダーであり、器官発生パターンを応用した器官再生技術の開発や、再生毛包原基移植による毛包器官再生医療の開発などに携わっていらっしゃるそうです。

参考:現代ビジネス
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/82125?imp=0

参考:理化学研究所 生命機能科学研究センター 器官誘導研究チーム
https://www.bdr.riken.jp/jp/research/labs/tsuji-t/index.html

上皮性幹細胞と間葉性幹細胞

記事によると、辻氏が率いるチームの研究では毛包のもとになる毛包原基を再生医療の技術でたくさん作りだし、頭皮に移植して毛包の数を増やし頭髪の再生を促すというものだそうです。

そもそも毛包は身体の器官のひとつであり、器官とは複数の種類の細胞が集まって固有の構造や機能を持つものです。
それら器官は上皮性幹細胞と間葉性幹細胞という2つの幹細胞の相互作用によって、もとになる器官原基(器官のタネ)が誘導されるのだそうです。
その後、この器官原基は増殖と分化を繰り返して、器官固有の形態と機能を獲得することになると言います。
研究チームは、この発生のメカニズムから器官を再生するには器官原基を再生し移植すれば良いのでは、という着想に至ったのだそうです。

毛包を再生するためには、毛包の上皮性幹細胞と間葉性幹細胞という2種類の幹細胞をうまく組み立てることによって、毛包の原基をつくり、毛包にしていけばよいと考えました。
そこで研究チームは、上皮性幹細胞と間葉性幹細胞の2種類の細胞を高密度に区画化する細胞操作技術である器官原基法を開発。
この方法では、再生器官原基を成体内の本来の器官があるところに移植することで、機能的な再生が可能なことを、マウスを使った研究で実証したそうです。
再生器官原基に関しましては、他のWebページでも辻氏のお話が掲載されていました。

参考:公益財団法人 テルモ生命科学振興財団
https://www.terumozaidan.or.jp/labo/technology/30/index.html

マウス実験では毛の再生に加えヘアサイクルも復活

マウスを使った実験では、成体マウスの毛包から上皮性幹細胞と、間葉性幹細胞である毛乳頭細胞を取り出し、器官原基法によって毛包原基を再生。ヌードマウスの皮膚内に再生毛包原基を移植したところ、
移植21日目にはマウスの皮膚から再生毛が生え、天然の毛と同じように立毛筋や神経線維が接続し、正常な毛の生理反応が認められたそうです。
さらに長期間観察したところ、移植動物の生存期間中は正常に毛周期(ヘアサイクル)を繰り返していたというのです。

使用する部位は従来の自毛植毛技術と同じ

毛包再生を再生医療として実用化するに向けて、毛包の元を構成する2種類の幹細胞を生体外で安定して増やす技術の開発が必要です。
研究チームは7年以上の歳月をかけ、2種類の細胞を安定的に生体外で増やす技術を開発したそうです。
AGA(男性型脱毛症)は、2種類の幹細胞うち間葉性幹細胞である毛乳頭細胞が脱毛症の発症原因であることが知られています。
そのため、脱毛症にならない後頭部の毛乳頭細胞を使うことで、移植した頭頂部の部分の毛包の運命を後頭部型に転換することが可能になります。

この考え方は、従来のAGA対策である自毛植毛と同様です。
AGAの影響は生え際から頭頂部にかけての範囲で発症し、後頭部や側頭部の一部では認められない。私が親和クリニック大阪院で施術してもらった自毛植毛のMIRAI法では、
主に後頭部からドナーとなる株(毛包)を極細のマイクロパンチブレードで採取し、それをAGAの影響により毛髪が脱落しハゲてしまっていた部位に移植しました。

記事に戻ります。毛包原基を大量に安定して製造するための技術開発も必要不可欠だったと言います。
しかしその課題には、京セラ社との共同研究によって、短時間に一定の規格で安定的に大量製造する技術の開発に成功したそうです。
この時点で、ヒトにおける再生毛包原基を移植する脱毛症治療の可能性が高まりました。
しかし…。

臨床研究にコロナの影響が

ヒトに移植する臨床研究を行うためには、
「再生医療等の安全性の確保等に関する法律(再生医療等安全性確保法)」に基づいて実施する必要があるそうです。
毛包再生医療は、患者自身の毛包から単離した体性幹細胞を使うため、第2種再生医療等に該当。特定認定再生医療等委員会による承認と、厚生労働大臣への提供計画の届け出が必要なのだそうです。やはり、医療技術というものは研究と認可の繰り返しなのですね。

これまで理化学研究所発のベンチャー企業であるオーガンテクノロジーズ社を中心に大学病院と共同研究開発を進行。
脱毛症治療としての安全性と有効性の評価を進めるための毛包再生臨床研究の実施申請をし、2020年6月に特定認定再生医療等委員会から承認を受けたそうですが、新型コロナウィルス感染症の影響で計画は延期。
さらにオーガンテクノロジーズ社が経営に失敗し事業停止となり、臨床研究に入ることができずに実用化の道は中断したままなのだと言います。

私が以前から注目していたこの研究ですが、そのような事態になっていたとは…。

辻氏率いる研究チームの奮闘に期待!

「毛包再生の研究開発は、ヒトでの臨床研究が目前の、いわば5合目です」
と辻氏はおっしゃっています。
臨床研究の資金があれば1年以内に研究は開始できる状況にあるそうです。
まずはメカニズムが明らかな男性型脱毛症を対象に実施。その期間は1年半ほどになると予測を立てています。この臨床研究で安全性と有効性が明らかになれば、有償臨床研究として社会実装できることになるそうです。

毛包原器に限らず、再生医療というものはヒトの革新ともいえる技術です。
そのひとつが、世界を巻き込んだ新型コロナウィルス感染症の猛威、そして、そこから派生したであろう不況による影響により頓挫しています。
再生毛包原基は、既存の自毛植毛手術と組み合わせることでその効果が飛躍的に向上します。現状では採取した株の数がそのまま移植できる株の数であるのですが、そこに培養という工程が加わると、移植できる総数は培養した数となります。
もちろん、仕上がりは従来の自毛植毛と同様に、技術者でもあるドクターの腕前次第ということになりますが。

期待の新技術が頓挫してしまっているのは悲しい現実です。
しかし、私は諦めることなく研究チームに期待したいです。

ともあれ、とどまることのないAGAの進行に悩まされている方は、梅田の親和クリニック大阪院で無料カウンセリングを受診してみてください。
自毛植毛はもとより、投薬治療の相談など、自分にあった診療内容をカウンセリングしてくれます。