歳をとると毛が薄くなる仕組みを解明~後編~

前回からの続きを報告させていただきます。

国立大学法人 東京医科歯科大学
http://www.tmd.ac.jp/press-release/20160205/index.html

前回は、老化により毛が抜け落ちることの仕組み、毛包幹細胞のメカニズムまでを報告しました。
老化に伴いDNAの再生力も弱まり、その結果として毛包幹細胞の老化も進み毛を生み出すことができなくなってしまうということでした。
今回は老化するにあたって毛包幹細胞に何が起きているのかという、続きを報告します。

毛包幹細胞のメカニズムを探りDNAの損傷に着目した西村教授は、
老化に伴い毛包から17型コラーゲンというタンパク質がところどころ失われていることを掴んだそうです。
17型コラーゲンは毛包幹細胞をつなぎ止める役割があり、
17型コラーゲン欠損マウスでは毛包幹細胞がなくなり、脱毛も早く進行したそうです。
この17型コラーゲンは、補うことはできないが今あるものを失わないようにすることで予防や治療につながる可能性があるそうです。

この現象は、男女の性別に関係なく発現してしまうそうです。
この点はAGAとは異なり、すべての人間へ平等に課せられる宿命ともいえます。
「老化」から来るものですから当然とも言えますが…。

DNAが損傷してしまうと、誘導される好中球エラスターゼ(※注1)が
17型コラーゲンを分解してしまうので、エラスターゼを阻害したり、
17型コラーゲンを失わないようにする治療薬の開発に期待しているそうです。

西村教授は現在、皮膚全体の老化をターゲットに、臓器の老化の仕組みの解明に取りかかっているとか。
皮膚は毛髪も含めて常にターンオーバーを繰り返しているが、そこには毛包と共通した仕組みが働いているはずです。
そこから難治性潰瘍や褥瘡など高齢者の皮膚疾患を治療する糸口を見つけたいとのことです。

また、先天的に17型コラーゲンを欠損している「接合部型表皮水疱」という稀な病気もあり、その患者は若くして脱毛し、皮膚も摩擦に弱いそうです。
大量の放射線に曝露した場合にも同じように脱毛するが、マウス実験では、放射線によりDNA損傷が誘発されて17型コラーゲンが失われていたとのこと。
西村教授は、治療法が確立されていない上記の難治性脱毛は、加齢性脱毛との
共通点も多く、治療法開発のきっかけになればと考慮されているそうです。

なぜこの話題をいまご紹介したかと言いますと、
この研究では毛包や毛包幹細胞の加齢による変化を観察する性質上、
年単位の時間がかかってしまうそうなのです。
最初の野生型マウスの様子を見るのにも、教授は2年前後も費やしたそうです。

2018年秋。現状では続報が見受けられませんが、研究は続けられていると信じております。
歳を重ねることでの脱毛、症状が似通っている難病への対処。
植毛(=自毛植毛手術)をしたとは言え、加齢による脱毛はついて回ります。もし、さらに画期的な発見があれば、植毛手術もいらなくなるかもしれません。西村教授の取り組みは、これからの私たちにとって期待せずにはいられないものです。
是非とも頑張ってもらいたいです!

※注1:タンパク質を分解するプロテアーゼの分類の一つ。コラーゲンの線維を支える役割を持つ線維”エラスチン”を分解したり、アミノ酸同士が脱水縮合して形成される結合の”ペプチド結合”を切断してしまう。